今年初めて暖房を入れた日



街のあちこちから色んな音が聞こえる

ひとつひとつが全体の音の隙間に浮いた時

それが音楽だってことに気付く

全てまとめるなら街の音つまりは騒音だ

必要のない人には雑音で必要な人には宝物だろう


なんだか最近更に騒がしく聞こえてしまうのは

すっかりコロナの静けさに慣れてたからかもしれない



とはいえ

ついつい街のあちこちの音の鳴ってる出所を

目でおってしまう


お。あっちから生の楽器の音がするぞ、

と鳴る方へまんまと向かうと


ちぇけちぇけおーいぇいよう、よう、ようyo


街頭ビジョンに流れる知らないシンガー

曲中の隙間から

聞こえてくるのは


路上ライブのチェケチェケマン達だ


今の路上ライブって豪勢だわ、令和だわ

迂闊に機材の総額を計算しそうになったところで

観客か傍観者か目撃者かとにかく人の群れ、

その中に見たことある人が居た


あたしがライブを終えて帰宅する深夜の最寄駅で

5回に1回出くわす人がいる

きちんと着物を着て髪をきちんと結った女の人

彼女はいつも歌っている

大きすぎて聞き間違いかと思うくらい

それはそれはとても大きな声で歌っている


彼女のステージは

駅のホーム上りも下りも終わった駅のホーム、

または駐輪場の横のちょっとした広場


大きな声で誰とも目を合わせず彼女は歌っている

大きな声で歌ってる

この人のハナミズキをあたしは20回は聞いた


先日終電車を降りたら居た、

そう、居た、


彼女は居て、あたしは今電車を降りた

聞き間違いかと毎度思うけど

彼女は終電車が今過ぎたホームでやっぱり歌っていた


出くわした時

少し恥ずかしい気持ちになってしまうのはなんでだろう


その人の羞恥心を

こちらが勝手に被っている気になってるのだろうか

だとしたら癪だ迷惑だ


こっちの心を揺さぶっておきながら

彼女は全く恥ずかしそうじゃないし、

むしろ気持ち良さそうに歌っている

私の中のこのむず痒い気持ちが疼くのはなんでだろう


あたしもみんなと同じように少し目を伏せて知らない顔をした


彼女の後ろを通ってエスカレーターに乗る


目の前のカップルがエスカレーターで

向き合いながら笑ってるのが目に入った

疲れたサラリーマンが怪訝そうに眉を顰めた


改札まで聞こえてきた

その歌声と自分の中の羞恥心がどんどん離れて

結局あたしの

この得体の知れない

恥ずかしいなあっとゆう気持ちだけ残って

家につく前に喫煙所に寄って揺れた気を確かにする




彼女がなんでそんなことをしてるのかは誰も知らない

誰かに気付いてほしいのかもしれない

誰かに褒められたいのかもしれない

誰かに聞いてほしいのかもしれない


誰も知らない、



あ、でもさ、そうか、


あたしも似たようなもんだわ


なんだか少し腑に落ちた



今夜彼女は新宿にいた

チェケチェケマン達の側で踊っていた

着物の袖が揺れるくらい両手を上げて踊っていた

腰を揺らし誰よりも踊っていた 


時折結ってる髪の毛を直しながら

でもステップはやめない


すべてから解放されたかのように踊る彼女は

とても無邪気で光って見えた

あたしの羞恥心は動かなかった

ただなんとなく安堵した


理由はわからないけれど、

よかったねと思ってしまった



それでもあたしはまた彼女と

深夜出くわしたなら

やっぱり少し下を向いて知らない顔をして

彼女の歌と自分の得体の知れない羞恥心が

離れてしまうところまで早足で過ぎてしまうだろう





おしまい



じゃないわ、おしまいじゃない

この暖房を入れた部屋をそろそろ出て

東名阪に行ってきます

独演家朱音さんと恒例になってきた凸凹ツアー

会いにきてね


そして来年あたしひとつ決めました

久々にやります、あれ、今年中に発表しますので

チェケチェケワンツーチェックしててください


写真は今からツアーに行く人とは思えないようなひと



あなたの羞恥心が動きますように